データから分散を計算するときにNでなくN-1で割る理由の証明の別解

Mon Oct 14 13:08:20 JST 2024 (modified: Wed Oct 16 18:05:32 JST 2024)
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 「分散はNでなくてN-1で割れ」と統計の授業とか研究室とかで言われた人は多いと思いますが、その証明となると結構ややこしいです。

 証明については「高校数学の美しい物語」にあり、「ロボットの確率・統計」でも同様のものを書きました。

 ただ、この証明方法だと証明の解釈が難しいので、もうひとつ別解を考えてみましたのでメモしておきます。分布自体の平均、分散と、データの平均、分散の区別を意識して、その値のズレがどれだけかを考えると解けます。

分布と標本の定義

 まず、ある分布\(p\)を考えます。この分布の平均(母平均)\(\mu\)と分散(母分散)\(\sigma^2\)は、\(p\)にしたがう変数\(x\)を使って、

\begin{align} \mu &= \langle x \rangle_{p(x)}\text{・・・(1)} \\ \sigma^2 &= \langle (x - \mu)^2 \rangle_{p(x)}\text{・・・(2)} \end{align}

で定義できます。ここで\(\langle f(x) \rangle_{p(x)}\)は、\(x\)が分布\(p\)にしたがうときの関数\(f\)の期待値です。

 また、分布\(p\)から独立同分布でサンプリングされた標本

$$x_{1:N} = \{ x_i | i=1,2,\dots,N \}$$

を考えましょう。この標本の平均値は

\begin{align} \bar{x} &= \dfrac{1}{N}\sum_{i=1}^N x_i \text{・・・(3)} \end{align} となります。

問題

不偏分散

$$s^2 = \dfrac{1}{N-1}\sum_{i=1}^N ( x_i - \bar{x} )^2$$

を考えます。不偏分散の期待値が、母分散と一致することを証明してください。これが証明できると、標本から分布の分散を求めようとすれば、分母に\(N-1\)を使う不偏分散を使うべきだということになります。

解きますよ

様々な分散の関係

 (2)の分散の定義は、\(x\)を何度も(無限に)選んで\(\mu\)との差の2乗の平均(期待値)を計算すると母分散となる、というものですが、\(x\)を選ぶ個数を\(N\)個に制限すると、その値は\(\sigma^2\)を期待値としてばらつきます。この\(N\)個に制限して求めた分散を、

\begin{align} \sigma_x^2 &= \dfrac{1}{N}\sum_{i=1}^N (x_i - \mu)^2\text{・・・(5)} \end{align}

と表しましょう。この期待値は母分散と一致するので、

\begin{align} \langle \sigma_x^2 \rangle_{p(x)} &= \sigma^2 \text{・・・(6)} \end{align}

となります。

 別の話として、この記事から、標本の平均値\(\bar{x}\)の分散は、

$$\sigma_{\bar{x}}^2 = \dfrac{1}{N} \sigma^2\text{・・・(7)}$$

となります。(この記事の\(\sigma_N^2\)が式(6)の\(\sigma_{\bar{x}}^2\)に相当します。)

 補足ですが、\(\bar{x}\)はぴったり\(\mu\)とならず、標本を作るごとにばらつきます。そのばらつきの大きさが、分散\(\sigma_{\bar{x}}^2\)の値の意味です。(7)を見るとわかるように、\(N\)を大きくとる(たくさんデータをとる)と、このばらつきは小さくなります。

標本の和と標本の平均値の関係

 ほぼ自明ですが、(3)について、

\begin{align} \bar{x} &= \dfrac{1}{N}\sum_{i=1}^N x_i = \dfrac{1}{N}\sum_{i=1}^N \bar{x} \end{align}

つまり \begin{align} \sum_{i=1}^N x_i = \sum_{i=1}^N \bar{x} \text{・・・(8)} \end{align}

となります。

変形

不偏分散と(6)の分散の差を計算していきます。(8)を使って\(\sum\)内の\(\bar{x}\)と\(x_i\)を入れ替えているところが何箇所かあります。\(x_i^2\)と\(\bar{x}^2\)は入れかえられませんのでご注意を。

\begin{align} s^2 - \sigma_x^2 &= \dfrac{1}{N-1}\sum_{i=1}^N ( x_i - \bar{x} )^2 - \dfrac{1}{N}\sum_{i=1}^N (x_i - \mu )^2 \\ &=\dfrac{1}{N(N-1)}\sum_{i=1}^N \left\{ N(x_i^2 -2x_i\bar{x} + \bar{x}^2) - (N-1)(x_i^2 -2x_i\mu + \mu^2) \right\} \\ &=\dfrac{1}{N(N-1)}\sum_{i=1}^N \left\{ x_i^2 -2N x_i\bar{x} + N\bar{x}^2 + 2(N-1)x_i\mu - (N-1)\mu^2\right\}\\ &=\dfrac{1}{N(N-1)}\sum_{i=1}^N \left\{ x_i^2 -2N \bar{x}^2 + N\bar{x}^2 + 2(N-1)\bar{x}\mu - (N-1)\mu^2\right\} \\ &=\dfrac{1}{N(N-1)}\sum_{i=1}^N \left\{ x_i^2 -N \bar{x}^2 + 2(N-1)\bar{x}\mu - (N-1)\mu^2\right\} \\ &=\dfrac{1}{N(N-1)}\sum_{i=1}^N \left\{ x_i^2 - 2\bar{x}\mu + \mu^2 - N\bar{x}^2 + 2N\bar{x}\mu - N \mu^2 \right\} \\ &=\dfrac{1}{N(N-1)}\sum_{i=1}^N \left\{ x_i^2 - 2x_i\mu + \mu^2 - N\bar{x}^2 + 2N\bar{x}\mu - N \mu^2 \right\} \\ &=\dfrac{1}{N(N-1)}\sum_{i=1}^N (x_i - \mu )^2 - \dfrac{1}{N-1}\sum_{i=1}^N (\bar{x} - \mu )^2 \end{align}

さらに、(5)から

$$s^2 - \sigma_x^2 = \dfrac{\sigma_x^2}{N-1} - \dfrac{N}{N-1}(\bar{x} - \mu )^2$$

となり両辺を期待値にすると、(6)、(7)から

\begin{align} \langle s^2 - \sigma_x^2 \rangle_{p(x)} &= \dfrac{1}{N-1}\langle \sigma_x^2 \rangle_{p(x)} - \dfrac{N}{N-1} \langle (\bar{x} - \mu )^2 \rangle_{p(x)} \\ \langle s^2 \rangle_{p(x)} - \langle \sigma_x^2 \rangle_{p(x)} &= \dfrac{1}{N-1}\sigma^2 - \dfrac{N}{N-1}\sigma_{\bar{x}}^2 \\ \langle s^2 \rangle_{p(x)} - \sigma^2 &= \dfrac{1}{N-1}\sigma^2 - \dfrac{N}{N-1}\dfrac{1}{N}\sigma^2 \\ \langle s^2 \rangle_{p(x)} - \sigma^2 &= 0 \end{align} したがって、 \begin{align} \langle s^2 \rangle_{p(x)} &= \sigma^2 \end{align} となり、不偏分散の期待値が母分散と一致します。(証明おわり)

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