標本の平均値はどれだけばらつくか

Mon Oct 14 11:19:29 JST 2024 (modified: Mon Oct 14 16:26:11 JST 2024)
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 「ロボットの確率・統計」で扱わなかった話題を書いておきます。

問題

ある確率分布\(p\)から\(N\)個データをドローして作った標本

$$x_{1:N} = \{ x_i | i=1,2,\dots,N \}$$

の平均値

$$\overline{x_N} = (x_1 + x_2 + \dots + x_N)/N$$

は、\(p\)の平均(母平均)\(\mu\)からどれだけばらつくでしょうか。分散\(\sigma_N^2\)を求めてみましょう。\(p\)の分散(母分散)は\(\sigma^2\)とします。

解答

 互いに独立な変数\(y_1, y_2,\dots, y_M\)を足した値\(y_1 + y_2 +\dots + y_M\)の分散は、それぞれの変数の分散\(\sigma_{y_1}^2, \sigma_{y_2}^2, \dots, \sigma_{y_M}^2\)の和\(\sigma_{y_1}^2 + \sigma_{y_2}^2 + \dots + \sigma_{y_M}^2\)になる。

 問題については、\(x_1/N, x_2/N, \dots, x_N/N \)は互いに独立(\(p\)に対して独立同分布)だと暗に仮定されているので、これらの和の分散は、\(\overline{x_N}\)の分散と一致する。したがって、

\begin{align} \sigma_N^2 &= \sum_{i=1}^N \langle (x_i/N - \mu/N)^2 \rangle_p \\ &= \dfrac{1}{N^2} \sum_{i=1}^N \langle (x_i - \mu)^2 \rangle_p \\ &= \dfrac{1}{N^2} N \sigma^2 \\ &= \dfrac{1}{N} \sigma^2 \end{align}

となる。

別解(長い)

ヒント

 分散の式は、

$$\sigma_N^2 = \left\langle (\overline{x_N} - \mu )^2 \right\rangle_{p(x)}$$

となります。また、分布\(p\)自体の分散(母分散)は、

$$\sigma^2 = \left\langle (x - \mu )^2 \right\rangle_{p(x)}\text{・・・(1)}$$

です。

 また、\(N=1\)のとき、\(\overline{x_N}\)は\(x_1\)に一致するので、

$$\sigma_1^2 = \left\langle (x_1 - \mu )^2 \right\rangle_{p(x)}$$

となりますが、\(x_1\)と\(p(x)\)の\(x\)は同じものなので、

$$\sigma_1^2 = \left\langle (x - \mu )^2 \right\rangle_{p(x)} = \sigma^2\text{・・・(2)}$$

が成り立ちます。

解き方

\(N\)を1つ増やして、

$$\sigma_{N+1}^2 = \left\langle (\overline{x_{N+1}} - \mu )^2 \right\rangle_{p(x)}$$

を変形していきましょう。\(x_1, x_2, \dots, x_N\)と\(x_{N+1}\)を分けるように変形すると、

\begin{align} \sigma_{N+1}^2 &= \left\langle (\overline{x_{N+1}} - \mu )^2 \right\rangle_{p(x)}\\ &= \dfrac{1}{(N+1)^2} \left\langle \left\{ x_1 + x_2 + \dots + x_{N+1} - (N+1)\mu \right\}^2 \right\rangle_{p(x)}\\ &= \dfrac{1}{(N+1)^2} \left\langle \left\{ (x_1 + x_2 + \dots + x_N - N \mu ) + x_{N+1} - \mu \right\}^2 \right\rangle_{p(x)}\\ &= \dfrac{1}{(N+1)^2} \Big\{ \Big\langle (x_1 + x_2 + \dots + x_N - N \mu )^2 \Big\rangle_{p(x)} \\ &+ \Big\langle (x_{N+1} - \mu)^2 \Big\rangle_{p(x)} \\ &+ \Big\langle 2(x_1 + x_2 + \dots + x_N - N \mu )(x_{N+1} - \mu) \big\} \Big\rangle_{p(x)} \Big\} \\ &= \dfrac{1}{(N+1)^2} \Big\{ N^2 \Big\langle (\overline{x_N} - \mu )^2 \Big\rangle_{p(x)} \\ &+ \Big\langle (x_{N+1} - \mu)^2 \Big\rangle_{p(x)} \\ &+ 2N \Big\langle (\overline{x_N} - \mu )(x_{N+1} - \mu) \big\} \Big\rangle_{p(x)} \Big\} \\ &= \end{align}

と、3つの期待値に分解できます。この3つの期待値は、

  • 最初のもの: \(\sigma_N^2\)
  • 2番目のもの: \(x_{N+1}\)が単に\(p\)からドローされた変数でしかないので、(1)の式と同じ。つまり母分散になる。
  • 3番目のもの: \(\overline{x_N}\)と\(x_{N+1}\)の共分散になりますが、\(x_{N+1}\)は\(x_1, x_2, \dots, x_N\)からはなにも影響を受けず独立なので、0になる。

したがって、 $$\sigma_{N+1}^2 = \dfrac{N^2}{(N+1)^2} \sigma_N^2 + \dfrac{1}{(N+1)^2} \sigma^2$$ となります。

\begin{align} (N+1)^2 \sigma_{N+1}^2 &= N^2 \sigma_N^2 + \sigma^2 \\ &= (N-1)^2 \sigma_{N-1}^2 + 2\sigma^2 \\ &= \cdots \\ &= 1^2\sigma_1^2 + N\sigma^2 \\ &= 1^2\sigma^2 + N\sigma^2 \quad (\because (2) )\\ &= (N+1)\sigma^2 \end{align} となり、 $$\sigma_N^2 = \dfrac{1}{N}\sigma^2$$ が得られます。

というわけで

ある確率分布から\(N\)個データをドローして平均値をとると、その平均値は、もともとの確率分布の分散を個数\(N\)で割った分散でばらつきます。

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